お腹に赤ちゃんがいる、あるいは生まれたばかりの子に母乳をあげている——そんな妊娠中・授乳中の犬猫は、ふだんとは体の状態が大きく違う特別な時期を過ごしています。この時期に薬をどう使うかは、飼い主さんにとって特に気になるテーマではないでしょうか。この記事では、妊娠中・授乳中の犬猫に薬を使ううえで知っておきたい考え方と、獣医師に伝えておきたいポイントを薬剤師の立場から紹介します。

妊娠中・授乳中は、体の状態がいつもと違う

妊娠中は、ホルモンバランスや血液の流れ、内臓の働きなど、体のさまざまな部分がふだんと違う状態になっています。授乳中も、母乳を通じて子にも影響が及ぶ可能性がある時期です。そのため、薬の使い方についても、妊娠・授乳をしていないときとまったく同じように考えるわけにはいかない場合があります。動物病院では、こうした体の状態を踏まえたうえで、その時期に適した薬を選んだり、使うタイミングを調整したりしています。妊娠・授乳中かどうかによって、同じ症状でも選ばれる薬や対応が変わることは珍しくありません。飼い主さんの側でも「今は特別な時期である」という前提を持っておくことが、安心して治療やケアを進める第一歩になります。ふだんは気にならなかった小さな体調の変化も、この時期は見逃さないようにしたいところです。食欲や飲水量、お腹の張り方など、日々の様子をよく観察しておくことが、変化に早く気づく手がかりになります。

妊娠・授乳中であることは、必ず伝える

動物病院を受診する際は、妊娠中である可能性があること、あるいは授乳中であることを、必ず獣医師に伝えるようにしましょう。特に、妊娠に気づく前の初期の時期や、避妊手術の予定があってまだ実施していない場合など、飼い主さん自身が状態を把握しきれていないこともあります。少しでも可能性があるなら、遠慮せずその旨を伝えることが大切です。フィラリア予防やノミ・マダニ対策など、定期的に使っている薬やサプリメントについても、この時期に継続してよいかどうかは、自己判断せず動物病院に確認するようにしましょう。「いつもと同じように続けていいのか」「今回はお休みしたほうがいいのか」は、その子の状態やタイミングによって判断が変わることもあります。かかりつけの動物病院を変えたばかりの場合や、複数の病院にかかっている場合は、それぞれの獣医師に妊娠・授乳の状況を伝え、情報の食い違いが起きないようにしておくことも大切です。

市販のサプリメントや人の薬は特に慎重に

妊娠中・授乳中は、「体に優しそうだから」という理由だけで市販のサプリメントを新しく始めたり、飼い主さんの手元にある人の薬を与えたりすることは避けましょう。これはこの時期に限った話ではありませんが、体の状態が変化しているこの時期は、ふだん以上に慎重な判断が必要です。サプリメントであっても、動物病院で使っている薬との飲み合わせや、体への影響がまったくないとは言い切れません。新しく何かを始めたいときは、必ず事前に動物病院へ相談してから取り入れるようにしてください。「妊娠中に良いと聞いたから」「他の飼い主さんが使っていたから」という情報だけで判断せず、その子自身の状態を診てもらったうえで取り入れるかどうかを決めることが、遠回りに見えて実は一番の近道です。人の薬はもちろん、他の犬猫のために処方された薬を分け合って使うことも、思わぬ体調不良につながるおそれがあるため避けましょう。

体調の変化に気づいたら、様子見をしすぎない

妊娠中・授乳中は、母体にも子にも普段以上に負担がかかりやすい時期です。食欲の低下や元気のなさ、出血など、いつもと違う様子が見られたときは、「そのうち落ち着くだろう」と様子を見すぎず、早めに動物病院へ連絡することをおすすめします。特に出産が近づく時期や、複数の子を育てている授乳中の時期は、体調の変化が急に進むこともあります。診断や対応の判断は必ず獣医師が行うものですので、飼い主さんは「変化に気づいたら早めに伝える」という役割を意識しておくと安心です。夜間や休診日に不安な様子が見られることもありますので、かかりつけの動物病院が休みのときにどこに連絡すればよいか、あらかじめ確認しておくと、いざというときに落ち着いて対応しやすくなります。

出産後・授乳が終わったあとの薬の見直しも忘れずに

出産や授乳が終わり、体の状態が落ち着いてきたら、それまで調整していた薬やケアの内容を見直す機会でもあります。妊娠・授乳期に合わせて量やタイミングを変えていた薬がある場合は、通常の状態に戻すタイミングについても動物病院に確認しておきましょう。子育てがひと段落すると、飼い主さん自身もほっとして薬の管理がおろそかになりがちですが、母体の回復のためにも、最後まで指示どおりに続けることが大切です。また、生まれた子犬・子猫がこれから受ける健康チェックや予防のスケジュールについても、このタイミングで動物病院とあわせて確認しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。

場面

飼い主さんが意識したいこと

受診のとき

妊娠・授乳の可能性を必ず伝える

継続中の薬・予防

自己判断で続けず、続けてよいか確認する

サプリメント・人の薬

新しく始める前に必ず相談する

体調の変化

様子見をしすぎず早めに連絡する

まとめ

妊娠中・授乳中の犬猫は、体の状態がふだんと大きく異なる特別な時期です。薬やサプリメントを新しく使うときはもちろん、すでに続けているものについても、自己判断せず必ず動物病院に相談しながら進めましょう。体調の変化に早めに気づき、伝えてあげることが、母体とこれから生まれる・育っていく子の両方を守ることにつながります。この特別な時期を、飼い主さんと動物病院が二人三脚で支えていく気持ちで乗り越えていきましょう。気になる症状や薬のことは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。