愛犬・愛猫が避妊去勢手術や外科手術を受けることになったとき、「手術の前後で、いつも飲んでいる薬はどうすればいいの?」「手術のあとに出された薬は、どう飲ませればいいの?」と不安になる飼い主さんは多いと思います。手術の可否や麻酔の安全性そのものについては、必ず担当の獣医師の判断に委ねる必要がありますが、家庭でできる薬の管理には、知っておくと安心できるポイントがいくつかあります。この記事では、手術前の絶食と普段の薬の扱い、手術後に出される薬の役割、そしてエリザベスカラーをつけた状態での薬の飲ませ方の工夫について、薬剤師の立場からお話しします。

手術前、いつもの薬はやめるべき? 自己判断はNG

心臓や甲状腺、てんかんなどの持病があって毎日薬を飲んでいる子の場合、「手術前は薬をやめたほうがいいのかな」と迷う飼い主さんは少なくありません。ですが、これは薬剤師の私からも強くお伝えしたいのですが、自己判断で普段の薬を中止したり量を変えたりしないでください。持病の種類や薬の種類によって、手術前も継続したほうがよい場合と、一時的に減らしたり中止したりする場合があり、その判断は獣医師が全身状態や手術の内容を見て決めるものです。

手術が決まったら、できるだけ早い段階で「今、こういう薬を毎日飲んでいます」と伝えておくと安心です。薬の名前が分からないときは、お薬手帳や薬の袋、パッケージをそのまま持っていくとスムーズです。サプリメントを与えている場合も、忘れずに伝えておきましょう。他の病院でもらった薬や、市販で買い足したサプリメントがあると、うっかり伝え忘れてしまうこともあります。手術前の問診では「今飲んでいるものを全部言う」くらいの気持ちで、まとめて伝えておくと安心です。

手術当日の絶食・絶水、なぜ必要?普段の薬との関係

手術当日は、多くの場合「前の晩から絶食」「当日朝は水も控える」といった指示が出ます。これは、麻酔中に胃の中のものが逆流して気管に入ってしまう事故を防ぐためです。この絶食・絶水の指示の中に、普段の薬をどう扱うかも含まれていることがほとんどです。「朝の分は病院で相談してから」「いつも通り少量の水で飲ませてよい」など、薬によって扱いが異なるため、必ず事前に病院へ確認しておきましょう。

「薬だけは特別だろう」と自己判断で普段どおり食事と一緒に与えてしまうと、絶食の意味が薄れてしまうことがあります。反対に、指示された薬まで自己判断で抜いてしまうと、持病のコントロールが乱れてしまうこともあります。不安なときは、来院前に電話で一言確認するだけでも安心につながりますし、病院側も「よくある質問」として丁寧に答えてくれるはずです。

手術後に処方される薬、どんな役割があるの?

手術が終わると、多くの場合、数日分の薬が処方されます。代表的なものとして、痛みをやわらげるための薬(痛み止め)と、傷口からの感染を防ぐための薬(抗菌薬の一種)が組み合わされることが多いです。そのほか、炎症を抑える薬や、吐き気を抑える薬が加わることもあります。どの薬がどんな目的で出されているのかは、退院時の説明でしっかり確認しておくと、飲ませるときの不安が減ります。

痛み止めは「もう元気そうだから」と自己判断でやめてしまうと、実は本人はまだ痛みを我慢しているだけ、ということもあります。犬や猫は痛みを隠すのが上手な動物なので、ぱっと見の元気さだけで判断せず、指示された期間・回数は途中でやめずに続けるのが基本です。飲ませ方や期間に疑問があれば、自己判断せず病院に問い合わせましょう。複数の薬が出ている場合は、それぞれの飲ませるタイミング(食前・食後、朝晩など)が異なることもあるため、一覧にしてメモしておくと飲み忘れや重複を防げます。

手術後の薬、飲ませ方と見守りのポイント

術後は、麻酔の影響やお腹の痛みで食欲が落ちていることがあり、いつものように薬を飲んでくれないことがあります。無理に口をこじ開けて飲ませようとすると、傷口に負担がかかったり、ストレスで状態が悪化したりすることもあるため注意が必要です。少量のごはんやウェットフードに混ぜる、獣医師に相談のうえで指示された飲ませ方の工夫を試すなど、負担の少ない方法を選びましょう。

術後に薬を飲んだ直後に吐いてしまった場合や、丸2日以上食欲がまったく戻らない場合、傷口を執拗に気にする・腫れや出血がある場合などは、自己判断で様子を見続けず、早めに病院へ連絡することが大切です。下記に、手術前後で特に見ておきたいタイミングをまとめました。

タイミング

見ておきたいこと

手術前日〜当日朝

絶食・絶水の指示と、普段の薬をどう扱うかの確認

退院直後

処方された薬の種類・回数・飲ませ方の説明を再確認

薬を飲ませた直後

吐き戻し、ぐったりする様子がないか

数日間の経過

食欲、傷口の状態、痛がる様子の変化

エリザベスカラーをつけたまま、どう薬を飲ませる?

術後はエリザベスカラーや術後服をつけて過ごすことが多く、「カラーをつけたままだと薬が飲ませにくい」と感じる飼い主さんも多いはずです。食事やお水を飲むときは、獣医師の指示のもとで一時的にカラーを外してよい場合がありますが、外している間はそばを離れず、傷口を舐めようとしていないか見守ることが欠かせません。薬を飲ませ終えたら、なるべく早くカラーを戻しましょう。

カラーをつけたままでも、フードに混ぜて与える方法であれば、カラーを外さずに済むこともあります。ただし、混ぜてよい食べ物や量については、体調や薬の種類によって向き不向きがあるため、退院時に病院で確認しておくと安心です。また、カラーの縁が顔に当たって薬を吐き出しやすくなることもあるので、うまくいかないときは無理せず、病院に相談しながら方法を探っていきましょう。

まとめ

手術前後の薬の扱いで大切なのは、「普段の薬をやめるかどうかも、術後の薬の飲ませ方も、自己判断で決めない」という一点に尽きます。手術前は持病の薬やサプリメントの情報を早めに伝え、絶食・絶水の指示に薬がどう関わるかを確認する。手術後は、痛み止めや感染予防のための薬を指示どおり続けながら、食欲や傷口の様子、薬を飲んだあとの反応をよく見守る。エリザベスカラーをつけている間も、外すタイミングは病院の指示に沿うことが安心につながります。うちの子が安心して手術を乗り越えられるよう、分からないことがあれば遠慮せず病院に聞く、という姿勢を大切にしてあげてください。

気になる症状や薬のことは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。