地震や台風など、いつ起こるか分からない災害。人間の分の備蓄は考えていても、ペットの薬までは後回しになっていませんか。特に持病があって毎日薬を欠かせない犬猫にとって、災害時に薬が手に入らない状況は、命に関わる不安につながります。結論から言うと、ふだんから薬を「少し多めに」「持ち出しやすい形」で備えておくことが、いざというときの安心につながります。防災というと水や食料をまず思い浮かべがちですが、毎日薬を欠かせない子にとっては、薬の備えも同じくらい命綱になる、という視点を持っておきたいところです。この記事では、環境省のガイドラインもふまえながら、犬猫の薬に関する災害への備え方を薬剤師の立場から紹介します。
災害時、ペットの薬をめぐって何が起こりうるか
災害が起こると、かかりつけの動物病院自体が被災して診療できなくなったり、避難や交通の混乱で通院自体が難しくなったりすることがあります。また、道路や物流が止まれば、薬を切らしても「すぐに買いに行く」ことができない場合もあります。人間の医療でも、災害時にお薬手帳や普段の処方内容を伝えられたことで、避難先でも治療を継続できたという話がよく聞かれますが、これはペットにおいても同じです。ふだん当たり前に受け取れている薬が、災害時には手に入りにくくなる可能性がある、という前提を持っておくことが、備えの第一歩になります。加えて、飼い主さん自身がケガをしたり体調を崩したりして、いつも通りの世話ができなくなる可能性も考えておく必要があります。家族の中で自分以外の誰かも、ペットの薬の場所や飲ませ方を知っている状態にしておくと、もしものときも安心です。
環境省のガイドラインが示す考え方
環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」を公表しており、災害時にはペットを置いていかず一緒に避難する「同行避難」を基本的な考え方として示しています。そのうえで、平常時からの備えとして、水や食料とあわせて、ふだん使っている薬を用意しておくことも呼びかけられています。行政の一次情報としてこうした指針が示されていることは、飼い主さんが薬の備えを「気にしすぎ」ではなく、標準的にやっておくべき備えとして捉える後押しになります。詳しい内容は、環境省の公式サイトで公開されているガイドラインもあわせてご確認ください。同行避難は「一緒に避難すること」を指すのであって、避難所内で必ずペットと同じ空間で過ごせることまでは意味しません。避難所によって受け入れ方は異なるため、地域の避難所がペットの受け入れをどう想定しているかも、事前に自治体の情報で確認しておくと安心です。
ふだんからできる薬の備え方
特別な準備をゼロから始める必要はありません。次のような、日常の延長でできる工夫から始めてみましょう。
備えの工夫 | 具体的なポイント |
|---|---|
薬を切らす前に受診・補充する | 残りが少なくなってから慌てるのではなく、余裕を持って早めに補充する習慣をつける |
持ち出し用のセットを作る | 普段使いとは別に、数日分の薬をひとまとめにして防災バッグに入れておく |
説明書・お薬手帳を一緒に入れる | 薬だけでなく、飲ませ方や経過が分かる記録もセットにしておく |
保管場所を家族で共有する | 誰が持ち出すことになっても分かるよう、置き場所を決めておく |
持ち出し用の薬は、時間がたつと使用期限が近づくため、通院や補充のタイミングにあわせて中身を入れ替える習慣をつけておくと安心です。あわせて、キャリーバッグやケージに普段から慣らしておくことも大切な備えのひとつです。避難時は慣れない環境でストレスがかかりやすく、体調を崩す子も少なくありません。ふだんからキャリーバッグを嫌がらないように慣らしておくことは、薬の備えと同じくらい、いざというときの負担を減らすことにつながります。
避難先で薬を切らしてしまったときの考え方
備えていても、長期の避難生活の中で薬が足りなくなることは起こり得ます。そのときに大切なのは、自己判断で市販薬や他の子の薬を代わりに使わないことです。避難先の動物病院や、災害時に開設される動物救護の窓口に相談し、これまでの薬の情報(お薬手帳や説明書のコピーなど)を見せながら、代わりの対応を相談しましょう。ふだんから記録を整理しておくことは、こうした緊急時にこそ大きな力を発揮します。自治体や地域の獣医師会が発信する災害時の相談窓口の情報にも、日頃から目を通しておくと安心です。SNSやポータルサイトで情報収集する場合も、発信元が自治体・獣医師会・動物病院など、信頼できるところかどうかを確認する習慣をつけておきましょう。
持病がある子は特に早めの備えを
心臓や腎臓、内分泌系の持病があるなど、薬を毎日欠かせない子は、災害時の影響がより大きくなります。こうした子については、数日分の余裕を持った備蓄に加えて、普段からかかりつけの獣医師に「災害時はどのように対応すればよいか」を相談しておくと、いざというときの心構えができます。持病の内容や薬の種類によって対応も変わってくるため、一般的な備えだけでなく、うちの子に合わせた個別の相談をしておくことが、より確実な安心につながります。特に、薬の量や種類が季節や体調によって調整される子は、災害が起きた時期の処方内容が最新の状態で分かるよう、こまめに記録を更新しておくとよいでしょう。
まとめ
災害時、うちの子の薬が手に入らなくなる可能性は、決して他人事ではありません。環境省のガイドラインも参考にしながら、ふだんから少し多めの備蓄と、持ち出しやすいセットづくりを心がけておきましょう。お薬手帳のような記録をあわせて備えておくことも、いざというときの安心につながります。
気になる症状や薬のことは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
出典: 環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/disaster.html)
