転勤や引っ越し、長期の海外滞在などで、持病があり毎日薬を飲んでいる犬や猫を連れて海外へ渡航することになった、という方もいるのではないでしょうか。犬や猫を連れて海外へ渡航するとき、薬の持ち込みには国によって異なるルールがある可能性があり、出発前の確認がとても大切です。この記事では薬剤師の立場から、渡航前に知っておきたい考え方の枠組みと、準備しておくと安心なポイントをまとめました。

犬猫の薬の持ち込みは「国によってルールが違う」と考える

動物用の医薬品や、薬に含まれる成分の持ち込みについては、国ごとに規制が異なります。人間の薬でも、麻薬や向精神薬に分類される成分を含むもの(鎮痛剤や抗不安薬などの一部)は、多くの国で持ち込みに制限や届け出が必要とされることがありますが、犬や猫の薬についても同じように、成分によっては制限の対象になる可能性があります。

「この薬なら大丈夫」「この国は緩いはず」といった思い込みは避けて、渡航が決まったら、出発する国(日本)側のルールと、渡航先の国側のルールの両方を、それぞれの窓口で確認する、という姿勢で準備を始めましょう。渡航先によっては、動物用医薬品の持ち込みそのものに事前の許可申請や証明書の提出が求められる場合もあると言われています。どのような書類がどこまで必要になるかは国や薬の種類によって大きく変わるため、この記事では個別の国のルールを断定的にお伝えすることはできません。渡航先の在日大使館・領事館や、現地の検疫当局、利用する航空会社の窓口に、早め早めに問い合わせておくことが、結局いちばんの近道になります。ルールは変更されることもあるため、直前ではなく余裕を持って調べ始めることをおすすめします。

まずは動物検疫所(農林水産省)に相談してみましょう

日本には、動物の輸出入に関する手続きを扱う「動物検疫所」という農林水産省の機関があります。犬や猫を連れて日本から海外へ渡航する際の手続きについてもQ&A形式の案内を公開しており、問い合わせ窓口も用意されています。

薬そのものの持ち込みルールは検疫所の管轄外の部分もありますが、渡航に伴う動物の手続き全体を早い段階で把握しておくと、薬の準備も含めたスケジュールが立てやすくなります。渡航先の国によっては、犬や猫を受け入れる条件として、狂犬病の抗体検査や係留期間など、独自の動物検疫のしくみを設けているところもあり、その準備には数か月単位の時間がかかることも珍しくありません。犬・猫本体の検疫手続きと、薬の持ち込みルールは別物として、どちらも早めに確認しておくと安心です。具体的な必要書類や必要な期間は制度改正で変更されることがあるため、思い込みで進めず、必ず公式サイトや窓口で最新情報を確認するようにしてください。

出発前に準備しておきたいもの

薬そのものの他にも、いざというときに説明や証明ができるように、書類の準備をしておくと心強いです。かかりつけの動物病院には、渡航が決まった段階でできるだけ早く相談しておきましょう。

準備するもの

ポイント

薬の必要量

渡航先で同じ薬がすぐ手に入るとは限らないため、予定日数より少し余裕を持たせておくと安心です。

処方箋・お薬手帳の控え

薬の名前(成分名)や量が分かる書類のコピーを、動物病院でもらっておきましょう。

英文の診断書・薬の説明

持病の内容や薬の必要性を英語で説明したものがあると、空港などで確認を求められたときに安心です。

動物病院への事前相談

渡航先や期間を伝え、薬の量・書類・保管方法まで含めて一緒に準備してもらいましょう。

英文の診断書や薬の説明書類は、獣医師に発行してもらう必要があります。渡航先や航空会社によって求められる書類の形式が違うこともあるため、渡航先の詳細が決まったタイミングで、動物病院にも早めに共有しておくとスムーズです。

時差・気候の変化で投薬タイミングを変えていい?

長時間のフライトで時差のある国へ移動すると、「いつもの時間に薬を飲ませるべきか、現地時間に合わせるべきか」で迷う飼い主さんも多いです。また、気候が大きく変わる渡航先では、体調の変化から薬の効き方が変わることもあります。

ですが、投薬のタイミングを自己判断でずらすのはおすすめできません。薬の種類によっては、飲む間隔が空きすぎたり、逆に短くなりすぎたりすることで、効果や体への負担に影響が出ることがあるからです。渡航前に、フライトのスケジュールと現地到着後の生活リズムをかかりつけの獣医師に伝え、「移動中はどう飲ませるか」「現地に着いてから何日かけて時間を合わせていくか」を、具体的に相談しておきましょう。

機内・移動中の薬の保管で気をつけたいこと

薬は基本的に、預け荷物ではなく手荷物として、自分の手元に置いておくことをおすすめします。荷物が予定と違う便で運ばれてしまったり、到着が遅れたりしても、薬だけは手元にあれば投薬を続けられるためです。

保管環境にも注意が必要です。機内や空港では、直射日光の当たる場所や、高温になりやすい荷物の中に長時間置かれることがあります。飛行機に預ける荷物の内部は、想像以上に温度が上がったり下がったりすることがあるため、温度管理が必要な薬は特に、手荷物として自分のそばに置いておくほうが安心です。冷所での保管が必要な薬(一部の注射薬など)を扱う場合は、保冷剤や保冷バッグの使い方、移動中どのくらいの時間なら常温でも大丈夫かといった点について、出発前に動物病院や薬剤師に具体的に相談しておきましょう。また、液体状の薬を手荷物として機内に持ち込む場合のルールは、航空会社や渡航先によって異なることがあるため、こちらも早めに航空会社へ確認しておくと安心です。長時間のフライトでは、乗り継ぎ時間も含めたスケジュール全体を見て、薬を飲ませるタイミングを逃さないようにメモや薬の一覧表を作っておくのもおすすめです。

まとめ

犬や猫を連れて海外へ渡航する際は、薬の持ち込みについて「国ごとにルールが違う可能性がある」という前提で、早めに情報収集を始めることが何より大切です。動物検疫所への相談、動物病院での書類準備、そして投薬タイミングや保管方法についての獣医師への相談をひとつずつ進めておけば、慣れない海外への移動でも、いつもの薬を安心して続けてあげられます。

気になる症状や薬のことは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。


出典:動物検疫所「動物検疫所 - 日本から海外への犬、猫の持ち出しについて」(農林水産省)