シニアになった愛犬・愛猫に、夜中に急に鳴き出す、部屋の中をぐるぐる歩き回る、昼と夜が逆転してしまったといった様子が増えてくると、「もしかして認知症かもしれない」と不安になりますよね。結論からお伝えすると、犬猫の認知症(正式には「認知機能不全症候群」といいます)は、獣医師の診断のもとで、対症療法の薬・サプリメント・生活環境の工夫を組み合わせながら、進行をゆるやかにし、できるだけ穏やかに過ごせるようにしていく病気です。今回は薬剤師の立場から、犬や猫の認知症について、症状の見分け方から、サプリと薬をどう組み合わせるか、そして自己判断で量を増やしたり減らしたりしてはいけない理由まで、順番にお話しします。

犬猫の認知機能不全症候群とは?夜鳴き・徘徊はサインのひとつ

認知機能不全症候群は、加齢によって脳の働きがゆっくりと変化していくことで起こるとされています。よく見られる様子として、夜中の意味もない鳴き声、部屋の隅で立ち止まって動けなくなる、狭いところに入り込んで後退できない、昼はぐっすり眠って夜になると活発になる昼夜逆転、これまでできていたトイレの場所が分からなくなる、飼い主さんを見ても反応が薄くなる、といったものが挙げられます。ただし、こうした様子だけで「認知症だ」と決めつけることはできません。似たような様子は、目や耳の衰え、関節の痛み、他の病気が原因で起きることもあります。まずは動物病院で診てもらい、獣医師に様子を伝えて、必要な検査を受けたうえで判断してもらうことが第一歩になります。受診の際は、いつ頃から様子が変わったか、どんな時間帯にどんな行動をするかを、できればメモや動画で記録しておくと、獣医師が状態を把握する手がかりになります。

サプリ・対症療法の薬・生活環境の工夫は、どう組み合わさるの?

認知機能不全症候群には、これを飲めば治るという薬はなく、いくつかのアプローチを組み合わせて、うちの子に合ったペースを見つけていくのが一般的です。ひとつは、脳の血流を助けるとされる成分や、抗酸化作用があるとされる成分を含んだサプリメントを取り入れる方法です。もうひとつは、夜鳴きや不安な様子がつらそうなときに、獣医師の判断で対症療法として薬を使う方法です。そしてもうひとつが、生活のリズムを整えたり、部屋の中の安全を確保したりといった環境面の工夫です。この三つは、どれか一つだけで完結するものではなく、うちの子の様子を見ながら少しずつ調整していくものです。どの組み合わせが合うかは一頭一頭違うため、まずは獣医師に相談しながら、無理のない範囲で試していく姿勢が大切です。

進行をゆるやかにするために、飼い主さんができる生活の工夫

薬やサプリと並んで大切なのが、日々の生活環境です。まず意識したいのは、朝起きる時間・ごはんの時間・散歩の時間をできるだけ一定にする、規則正しい生活リズムです。体内時計が整うことで、昼夜逆転がやわらぐこともあります。また、日中に軽い散歩や声かけ、知育トイのようなもので適度な刺激を与えることも、穏やかに過ごすための助けになるといわれています。ただし、無理に運動させたり、慣れない場所に連れて行ったりすると、かえって不安が強くなることもあるため、うちの子のペースを大事にしてください。徘徊してぶつかりそうな家具の角を保護する、迷子にならないよう柵を置く、といった安全面の工夫も欠かせません。焦らず、できることから少しずつ整えていきましょう。なお、こうした生活の工夫は病気そのものを治すものではなく、あくまで穏やかに過ごすための支えです。うちの子の様子が急に変わったときは、生活の工夫だけで様子を見ようとせず、早めに獣医師に相談してあげると安心です。

サプリや薬を自己判断で増やしたり減らしたりしてはいけない理由

「効いている気がしないから量を増やしてみよう」「調子が良さそうだからやめてみよう」というように、飼い主さんの判断だけでサプリや薬の量を変えるのは避けてください。理由はいくつかあります。まず、認知機能不全症候群の様子には日によって波があり、たまたま調子の良い日・悪い日だけを見て判断すると、実際の効果を正しく見極められません。また、対症療法の薬は、他に飲んでいる薬や持病との兼ね合いで量が決められていることも多く、自己判断で変えると、体調に影響が出たり、他の病気のサインが分かりにくくなったりする心配もあります。サプリメントについても、複数を同時に与えると成分が重なってしまうことがあります。増減を考えたいときは、必ず一度、獣医師や薬剤師に相談してから決めるようにしましょう。

甲状腺や腎臓の病気と見分けにくいことも。必ず受診が必要な理由

夜鳴きや落ち着きのなさ、活動量の変化といった様子は、認知機能不全症候群だけでなく、甲状腺の病気や慢性腎臓病、関節の痛み、目や耳の衰えなど、他の病気でも見られることがあります。飼い主さんが自宅の様子だけで「うちの子は認知症だ」と判断してしまうと、本当は別の治療が必要な病気を見逃してしまう可能性があります。下の表は、認知症を疑うきっかけになりやすい様子と、他の病気でも見られることがある様子の一例です。あくまで目安であり、実際の判断は必ず獣医師による診察・検査に基づいて行われます。

気になる様子

認知機能不全症候群でも見られる

他の病気でも見られることがある

夜鳴き・落ち着きのなさ

あり

甲状腺の病気、痛みを伴う病気など

昼夜逆転・活動量の変化

あり

甲状腺の病気、慢性腎臓病など

反応が鈍い・ぼんやりして見える

あり

目・耳の衰え、他の内科的な病気など

トイレの失敗が増える

あり

膀胱炎などの泌尿器の病気、関節の痛みなど

まとめ

犬猫の認知症、つまり認知機能不全症候群は、夜鳴きや徘徊、昼夜逆転といった様子から疑われることが多い病気ですが、断定するには獣医師による診察が欠かせません。診断のあとは、脳の血流を助けるとされる成分などのサプリメント、対症療法としての薬、そして規則正しい生活リズムや適度な刺激といった生活環境の工夫を、うちの子に合わせて組み合わせていくことになります。サプリや薬の量を自己判断で変えることは避け、甲状腺や腎臓の病気など、似た様子を示す他の病気が隠れていないかも含めて、必ず獣医師に相談しながら付き合っていきましょう。

気になる症状や薬のことは、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。